学園(姫)

俺はキッチンの椅子に座って待つ事にした。

渚さんは自分の使った洗い物を済ませて、エプロンを外した。

「それじゃあ、私は少し出かけますね」

渚さんは髪を束ねたゴムを外すと、甘い香りが周囲を包んだ。

「どこか、行くの?」

「ちょっと、町内会の集まりがありまして」

「そうか」

「夕方頃には帰ってきますから」

「うん」

渚さんは家から出て行った。

その数分後に、チャイムが鳴る。

玄関の向こう側には、龍先輩が立っていた。

乾は相変わらず、近くのどこかで待っているようだ。

「先輩」

「丞よ」

眉を逆ハの字にしながら、こちらを睨んでいる。

「何?」

怒らせた事でもしたかと思い悩む。

「ワラワとそなたの仲ではあらぬか、姫ちゃんと呼ばぬか」

まだそこにこだわっていたのか。

丁寧語からタメ口に変わっただけでも、相当な力を必要としたんだがな。

しかし、呼ばない限りはご立腹のままなのだろう。

「ひ、姫ちゃん」

「よかろう。許してやるぞえ。丞ちゃん」

龍先輩は恥ずかしくないのだろうか。

学校まで同じようにお互いでちゃん付けで呼び合うのか。

不味い。

それは非常に不味いな。

俺としてはバカップルなんて風に見られたくはないのだが。

しかし、満足な顔をしている龍先輩には何もいえなかった。