The ring is a cupid

「知ってるよ。的場がいつも誰を見てたかなんて。だけどさ、俺諦められない。

俺じゃダメかな?」


斉藤くんが好きだって、知ってるのに言ってくれたんだ。

それでも、想ってくれているんだ。


それでも言わなきゃ。私も前に進まなきゃ。

「ありがとう。でもね、ごめん。やっぱ私…」


「おうっ!分かった。何か悪ィな。困らせちゃった感じで。
もう困らせたりしないからさ。だから…」


まだちょっと好きでいて良い?


ごめんね。ありがとう。

自分でも分からないくらいにぐちゃぐちゃな気持ちに、制御がきかなくて。

泣いてしまった。


泣きたいのは、野山の方だよね。


それでも泣きやむまで傍に居てくれた。

渾身の一発ギャグ。いつもは寒いのに、今は何だかすごく可笑しかった。




「的場はさー、言わないのか?」

落ち着いた私に、空を見上げながら野山は聞いた。


私も同じように空を見上げる。


当たって砕けろ。

嫌いな言葉だった。ついさっきまで。


それも良いかもしれない。

野山の想いを砕いてしまって、分かった。

伝えるだけが苦しいんじゃない。

伝わる方も嬉しくて、悲しいんだ。



「野山のおかげで、決心した。
今から行ってくる」


立ち上がって、スカートの埃をはらった。


野山に背を向ける。


「ありがとう。野山は最強の友達だよ」


あはは、いつものように笑った野山は、声も軽くなっていて。

「褒められてんのか、どうなのか分かんないな、それ」


友達ってのはまずかったかな、と振り返る。


「まー、頑張ってこいや。的場には笑顔が似合うからな」

ピースサインを揺らしながら、言ってくれた。

また泣きそうなのを堪えて、私もピースをした。


何処だろう。

斉藤くんの背中だけを探して走る。

靴箱に靴が無いのを確認して、校舎を出た。

涙のあとに冷たい風がしみて少し痛かった。