暁が連れてきてくれたのは、あたしが以前からよく雑誌で見てはその金額に溜息を付いて諦めていた海外ブランドの直営店だった。

あたしには大人っぽいデザインばかりで敷居が高い気がしたけれど、きっと暁はあたしがこのブランドを気に入っていると思って連れて来てくれたのだと思う。

本当のこと、暁が知ったらガッカリするかしら?

このブランドは暁の付き合っていた百合子さんがよく着ていたものだ。

暁にお似合いの大人の彼女が羨ましくて、背伸びしてみたくて…雑誌を開いては自分には無縁のものだと言い聞かせてきた。

子供のあたしが暁の彼女に敵う筈が無いと思い込もうとしてきた。

それなのに、暁はあたしを好きだと言ってくれた。

信じられないけれどプロポーズまでされてしまった気がする。


これって夢じゃないよね?

本当に現実だよね?

あたしの肩を抱き店に入ろうとした暁に、確かめたくて手を伸ばした。

「ねぇ?暁…。」

伸ばした手が無意識に暁の頬へと伸びた。



むにゅっ☆



「………夢じゃ…ない?」

暁の頬を思いっきりつねる事で現実を確かめるあたしを、呆然と見つめる暁。

「………夢じゃ…ねぇみたいだな。イテテ…。」

痛がる暁の姿にようやく無意識に自分のした行動に気付いて慌てて謝った。

暁は笑っていたけれど、後でお仕置きと称してされた長い長いキスで酸欠になったあたしは身を持って知った。

恋人になったら今までみたいに簡単に何でも笑って許して貰えないらしい…と。