握ったままの杏の手を強く引き寄せ、杏を腕の中に引き寄せる。

狭い車内では上手く身動きがとれず杏は倒れこむように俺の胸に顔を埋めた。

俺のとった突然の行動に無意識に漏れた吐息さえ、花の香りをまとっている様で、目眩を感じるほどに酔いしれてしまう。

狂おしいほどの愛しさにそのままギュッと抱きしめて、それでも心の内を悟られないようにワザと落ち着いた様子でからかうように耳元で囁いた。

「クスッ…どうした?何もしてないよ。まだ抱きしめただけだろう?感じるのは夜になってからにしてくれよ」

途端に真っ赤になり何か言い返そうと俺を見上げた僅かの隙に唇を塞ぐ。

一瞬だけ固まったが、杏はすぐに力を抜き、俺に全身を預けてきた。

「今夜は覚悟しておいて…今まで我慢していた分全部受け止めてもらうから…」

キスの合間にそう言うと杏は恥ずかしそうに視線を逸らす。

そんな仕草が愛しくて、またキスを繰り返した。


目を瞑れば鮮やかに蘇る。


杏と手を繋いで歩いたあの夜の光景


夏の夜空を彩った夢幻華は幼い俺たちの約束の華だった


あれから10年を経て

今やっと二人の心で咲く事が出来た炎の華。

この炎だけはもう決して消えることが無いように

しっかりと心を繋いで二人で火を灯してゆこう。


「杏…俺はおまえだけを一生愛していくよ。」


キスの合間に息を付くように囁くと


杏は小さな声で子守唄を歌うように応えた。



――あたしは…暁を愛する為に生まれてきたのよ――



++共に歩く未来Fin++

夢に咲く華へ…