杏……結婚しよう


「さ…とる…?」

「結婚しよう。右京父さんにはもう、さっき言ったんだ。俺が婿に来てやるって。まあ、それでもカナリ動揺していたけど、右京父さんにしても、杏を嫁に出すよりはうれしいんじゃねえかな?」

杏の瞳から、先ほどとは比べものにならないくらい大きなビー球のような涙がポロポロと溢れ出した。

もう、唇で吸い取るには追いつかないくらいに後から後から溢れ出してくる涙。杏のこれまでの想いの全てを語っているようだった。

「その涙がOKの返事だと思ってもいいのかな?」

俺の胸の上でギュッと握り締めたままの杏の手をそっと上から包み込むように握り締め、指をほぐすように伸ばしてやる。

強く握り締めた手の平には爪が食い込み、その部分は色が変色していた。

どれだけの力で耐えていたのかと思うと愛しくて、その手に優しくキスをした。

爪の跡をなぞりキスを繰り返しそっと唇で癒すようように返事をしない杏に更に聞いた。

「返事は…?俺と結婚するって子どもの頃からの約束だったろう?」