「パパ何だって?」

俺が携帯を切ると同時に杏はたたみ掛けるように質問してきた。

「嫁がどうとか、予約とか…訳わかんない話してたよね?何それ??」

……嫁に…か。杏に言ったらどんな顔するんだろう。

「暁…もしかして、百合子さんと結婚するの?」

……は?何でそうなるんだ?

「違うよ。何でそう言う考えになるんだよ。俺はもう、百合子とは別れたんだよ。」

「ええ何で?あんなに仲がよかったのに。」

「仲がよかった?俺たちがそんな風に見えたのか?」

「違うの?」

「違うね。俺たちは運命共同体だったんだよ。でも、もういいんだ。どんなに忘れようとしても俺の一部になってしまっている大切なものを忘れることなんて出来ないってわかったから。」

「暁の大切なもの?」

杏の頬にすっと手を添えて、キスをするように優しく親指で頬を撫でると、いつものように杏は受け入れるように瞳を閉じる。

そう、杏のこの仕草、表情。

どうして気が付かなかったんだろう。

杏はずっと前から俺を好きだったのに…。

いつだって杏は俺を受け入れていたのに…。

「ずっと長い間大切だったんだけどさ、失うのが怖くて正面から向かうのを忘れていた。でも、もう逃げない事にしたんだ。
やっぱり一番大切なものをなくしたくはないからさ。」

頬を滑っていた親指を杏の唇にずらす。

触れた瞬間杏がピクンと体を硬くするのがわかった。

愛しさとか、切なさとか、自分の中にある杏に対する想いが堰を切ったように溢れ出す。

何故…おまえがこんなにも愛しいんだろう