**届かない想い**

「暁、もうすぐあたしの誕生日よ。わかってる?」

日曜日、杏の家に行くと、顔を見るなり杏は俺を捕まえてそう言った。

わかってるよ。忘れるはずないだろう?
俺はおまえが大人になるのをずっと待ってるのに…。

「ああ、そうだったな。杏ももう16才になるんだな。プレゼントは何が欲しいんだ?」

そう言ってリビングの2人がけのソファーの中央に座ると何の違和感も無く杏は俺の隣りに座ろうとする。

杏のために少しずれてやりながらも、俺を男として意識していない杏に胸が苦しくなる。

隣りで首をかしげて「ねえ?なにくれるの?」と聞いてくる杏。

おまえ、可愛過ぎるんだって。その仕草やめろよ。

……押し倒したくなるだろ?

「あのね、お願いがあるんだけど…。」

杏が遠慮がちに上目づかいで見てくる様子に胸がバクバク鳴り出した。

そんな素振りを見せるわけにもいかず、平静を装って笑ってみせる。

「ん?何だ。何か欲しいものがあるのか?」

杏は少しためらった後、意を決したように俺を見て口を開いた。

薄いピンクの艶やかな唇に視線が吸い寄せられ、このまま、この唇を奪ってしまいたい衝動を必死に抑える。


そんな思考に囚われていたから杏の言った事は一瞬聞こえなかった。


いや、聞こえなかったと言うより、脳が理解できなかった。


多分幻聴だったのだろうと…


俺の願望が聞かせた幻だったのだろうと思った。



「暁が欲しいの」