それが杏の唇だったことに気づくまで数秒…。

気づいてから声を発するまで更に数十秒…。

「あっ、あんず?」

「さとる、だあいすきっ。あんず、ずっとそばにいるよ。だから、ずうっとそばにいてね?」

俺は自分のさっき杏に言った言葉を思い出した。


――杏。俺の傍から離れるなよ。ずっと傍にいるんだぞ――


「あんず、さとるのおよめさんになるよ。ずうっとそばにいるの」

目をキラキラさせて話す杏はとても愛らしい。

他の誰にも触れさせたくないと言う感情が暁の中で確実に大きくなっていた。

「杏、俺のお嫁さんになるのか?うわ…右京父さんにどつかれるな、俺」

くすくす笑いながら杏の手を強く握る。

「パパがさとるをおこったら、あんずがパパをしかってあげるね」

杏の真っ直ぐな瞳が俺の心を捕らえて目を逸らす事も出来ない。

「そうだな。いつか杏が大きくなって、その時もまだ、俺を好きでいてくれたら…お嫁さんにしてやるよ」

そういって俺は杏の額にキスをした。
杏と視線を重ねた時の俺は、きっと飛び切りの笑顔をしていたと思う。

「杏、りんご飴買いにいこうか?」

少し照れながらも小さな手を取り歩き出す。

その時俺たちの頭上で夏の夜の最後の花火が大きく華を咲かせた。

晩夏の夜空に咲いた大輪の幻は

そのまま幼い俺たちの約束の華になった。


この夜の約束が

二人の甘く切ない恋の物語に変わるのは


それから10年後のお話…。






++晩夏の花火Fin++
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ちょっとおませな二人でした(笑)
この続きは「夢幻華」~杏の想い~へと続きます
10年後のじれったい二人をどうぞ