【中編】夢幻華

「杏だって大学へ行きたいだろうし将来考えている職業だってあるんじゃないかな?俺は杏の夢を応援してやりたいし、結婚でその道を閉ざす事はしたくないから杏次第だと思うよ。」

俺の言葉に右京父さんは黙って頷いた。何も言わなくても俺の気持ちを察して受け止めているようだった。

なんだか父さんより俺の親父らしいって気がしてしまうんだけど?

「どっちにしても、杏が大学を卒業してから自分で決める事になるだろうな。」

俺の言葉を受けて蒼母さんが杏に瞳で問いかけた。杏は少し考えた後顔を上げると真っ直ぐな瞳で俺と父さんたちを見て言った。

「あたしね、薬剤師になりたいの。」

「え?薬剤師?」

「うん、晃君や暁と一緒に研究のお手伝いが出来るようになりたいの。
お医者様になるのは無理だけど、薬の知識を身につけて、二人と一緒に心臓病の治療研究と新薬を開発したいの。」

「杏、おまえ…。」

「ね?パパ、ママ良いでしょう?片想いしていた間もずっと思っていたの。たとえ想いが通じなくても暁と同じものを見て同じ世界で生きていたいって。
晃君はずっと茜ちゃんの病気を治せなかったことを悔やんでいる。
暁はそんな晃君と一緒に新しい治療法の研究をするためにお医者様になる努力をしてきたのをあたしはずっと見てきたの。
いつの間にか暁がどんどん遠い人に思えて寂しかったけれど、だったら自分から近付く努力をしたいと思ったの。」