ここに俺達が今日来たのは偶然なんだろうか?

一臣さんという共通の知人を通じて同じ日に親友がそれぞれ彼女を伴ってここへ来たと言う偶然は、龍也と俺に不思議な感覚を与えていた。

「ところで暁。ここに二人でいるって事は、お前杏ちゃんと上手く行ったんだろ?」

「え?ああ…まあな。やっと両想いってトコだよ。」

「そうか。良かったな。…じゃあ、今夜がアレか?初めての二人きりの夜って事か?」

「…初めてって…別に従妹なんだから何度も一緒に寝た事ぐらいあるさ。」

「ばぁか。やっと両想いになったんだろ?今までみたいに手を出せずに苦しい思いをする必要も無いって事だ。良かったよなぁ。ま、俺も協力してやるよ。」

「協力?何を言ってんだよ。訳わかんねぇ。」

「まあまあ、暁もやっと本当の愛を見つけたってことで俺も嬉しいんだよ。」

「余計なお世話だ。俺達に構うなよ。お前は聖良ちゃんだけ見てりゃ良いんだ。人に干渉するのもされるのも嫌いなお前が俺達に干渉なんかした日には、とんでもないことが起こりかねないからな。あんまり変わった事はしないでくれよ?」

「ふふん、まあそう言ってろ。後で感謝するさ。」

意味ありげな視線に、あえて気付かないフリをして視線を逸らすと、この話を切り上げる為に杏の隣りへ回り二人に声をかけた。

龍也が『ふうん…』と何か企み顔で俺を見ていたことには、このとき俺は気付きもしなかった。

龍也の言った『協力』とやらであんなに苦しい思いをさせられると知っていたら…



俺はこの時すぐに杏を連れてペンションを飛び出していたに違いない。