「好きになるはずなかったのに」


自分の名前が反響し、露子はびくっと足を止め、渋って眉をしかめた。


呼ばれた理由はわかっている。
露子の進行方向は彼らと違っていたからだ。
 
「あ……私はあっちに……ね!」
露子はそそくさと姿を消した。
 
「露ちゃんって呼ぶことにしたんですか?」
 冬実は円谷に、自然と詰め寄った。
 

「あ……さっき冬実さんが“つゆ”って呼んでたので、つい……気を悪くさせてしまったかな」
 

冬実はにっこりした。


「露子は漫画家で、折角こうやって刺激を受けられる場所に来たから、ひとり、世界に浸りたいんじゃないかなと思います」



「漫画家さんか……だからなんだか言葉がずっしりきたのかな……」
円谷は呟いた。
 
「何を言われたんです?」
冬実は覗きこんだ。
 

「ただ、僕の作品の感想をね」
 

「いい感想もらったんですね。
露子の感性に響いたっていうことは、自信持っていいと思いますよ!なんて!偉そうなこと言ってみたり」


冬実は円谷の腕を馴れ馴れしく掴み、ほら行きましょう?と目配せした。