「あの人さぁ、本当は嬉しかったんだよ。」 壁にかけてあったカレンダーを見るゆいの背中に、武藤静江のかすれた声が響いた。 振り向くゆいは「そう?」という顔をしている。 「あんた鈍いねぇ。そんなことしてると、他の女にとられちゃうよ。」 静江の前には大きな鏡と、たくさんの化粧道具が机いっぱいにばらまかれている。 水商売?と思わせるそのかすれた声と雰囲気に、ゆいは自分が幼いなぁと感じた。