「わわっ言ってなかった、ごめんなさい!!えと、美奈って言います」
そう言って一礼する。
「そんな改まんなくていいのに。…美奈ちゃんね、了解」
「ちゃんはいらないよー」
一樹に『君』は付けなくていいって言われたから私も『ちゃん』はいらないよって言っておいた。
「わかったよ」
「じゃぁ、一樹、よろしくね」
「こちらこそよろしく、美奈」
挨拶を交わしたところで、また強い風が吹いた。
「…美奈、そろそろ帰らないとじゃない?」
「そうする」
そういい屋上から出ようとしたけど、ふと一樹は帰らないのかと気になった。
だから聞いてみた。
「一樹は帰らないの?」
「まだもう少しここにいるよ」
「わかった、風邪引かないようにね」
「うん、じゃまたね」
「またね」
パタン
小さく音を立てて扉が閉まった。
「ふぅ…」
私は一息つく。
手が震えている。緊張していたらしい。
「え…?」
今までのことを思い返していた私は驚いた。
…なんで?
私、普通に男の人と喋れた。
あんなに男なんか信じられないと思っていたのに。
どうしてだろう?
一樹が優しかったから?
今まで私の周りにいた男達と違ったから?
確かに一樹は優しかったし、周りにいた男とは違った。
でも違う。
『一樹』だから。
『一樹』だから話すことが出来たし、疑うことなんか初めからしなかったんだと思う。
手を見てみると、まだ手が震えていた。
「ははっ一樹は凄いや…」
私はそう言って小さく笑った。
