まだ薄暗い外から、
月明かりだけがカーテンの隙間から差し込む、
小さな部屋に、
彼女はいた。
ベッドに腰掛けた彼女は改めて部屋を見た。
室内はさほど広くない。
小さめのクローゼットが一つ。
中を確認すると華やかな洋服に混じって、黒いスーツやらよくわからない物まで混じっている。
引き出しを開ける。
何かの証明書とカードキー。
…弾丸と火薬。
リビングには壁一面にピストルやライフルが掛けられている。
彼女はクローゼットから黒いショートパンツとミリタリージャケットを選んだ。
携帯電話を開く。
思いつくままにいくつか操作してみたが、着信履歴もメールも全て消去されていた。
おもわず微笑みがこぼれた。
煩わしい過去は、目が覚めても心に残留していない。
自分のプロフィールを呼び出すとそこにはシンプルに〈ナナセ・マーシャル〉と名前だけが表示された。

鏡で、自分の顔を確認する。
嫌いではなく、嫌。
やがて、世界は彼女の内側に侵入をはじめる。
携帯のサブディスプレイにメールを受信したことが表示される。
彼女は壁からM2カービンと拳銃を選び出し、玉と安全装置を確認して、ホルダーに突っ込んだ。
彼女は、コートを羽織り、部屋を出た。



売店で買ったばかりの地図を片手に指定された場所を目指した。
全身黒で身を包んだ少女は、目立つが、人々はそれを気にすることなく歩いてゆく。
風に揺れるけして長くはない黒髪。
ガラス玉のような双方の漆黒の瞳。
スウッと鼻筋の通った顔をしてはいるが、彼女には、けして女の華やかさはない。

人混みを避け、メールの指示と地図に従って裏路地を通ると、やがてお目当てのマンホールを見つけた。
マンホールの蓋に十字に走る細い溝にカードキーをクロスさせれば、鍵はあっさり解除された。
彼女は周囲を素早く確認した。
地表から地下へ降りている梯子を使うことなく、いきなりマンホールに飛び込み、
着地した。
ヌチャリ―…
靴底にまとわりつくヘドロが音をたてる。
彼女はそれに構わず頭上を見上げ、
先ほどのマンホールが勝手に蓋を閉め、
鍵をかける様を、ゆっくりと空が失われていく様を、眺めていた。
ガチャン―…
鍵が閉まる音と同時に、薄暗い地下道の中を、彼女は再び歩き出した。