彼女をベッドに寝かせてから、俺は部屋をでた。
煙草に火をつけて深呼吸する。
俺は煙草をくわえたまま支部長室へ向かった。

「コーヒーがいいなら、そこにある。言っておくが、他のものはない」
俺は黙ってそれを製造し始める。
「リチャード、お前も飲むのか?」
「お前が淹れてくれるなら」
コーヒーカップを彼のデスクに置く。
「で?何しに来た」
「用事はない。ただの暇つぶしだ」
リチャードはペンを置いた。
「珍しいな、お前が感傷に浸るのは。サルバ?」
「そういうわけじゃないさ…薬は?」
リチャードは白い錠剤を入った小瓶をデスクにのせた。
「いつも悪いな」
「ナナセに逃げられるよりマシだ」
俺は彼女のための“精神安定剤”をポケットに捩じ込む。
「もう報告は上がってるんだろ?あれで何人生きてた?」
「36。お前とナナセとB級を除いてな」
リチャードは特に何も言わなかった。
死んだC級の半分近くは俺と彼女が殺しているはずだが。
こんなことは日常だ、という感じで、無表情だった。
きっとそのとおりだ。
リチャードは馬鹿じゃない。
「あのB級生きてたか」
上等、上等と俺は笑う。生意気で多少短慮なところはあるが、実力も判断力もまあまあ。
「どうだった?」
彼はコーヒーを見たままだ。
「何が?」
「カジュ=シウバ」
「誰だ」
「一緒に行かせたB級だ」
ああ。
あいつ、カジュというのか。
「悪くない。昔のお前みたいだ」
リチャードはそれに関して何も答えなかった。
代わりに俺は続ける。
「お前は変わったな。だいぶ利口になった」
リチャードはフッと笑いを漏らした。
「昔のことだ。忘れてくれ」
俺の指先からカップが滑り落ちる。
砕け散った。
破片。
「だけどお前は変わらねえ。いまでも強かて狡猾だ」
俺はリチャードを見据える。
昔の相棒で、
今の上司で、
ナナセを利用する男。
「だから結局いけ好かない」
昔の相棒と今のパートナー。
どちらかを選べと言われたら俺は彼女を採るだろう。
それほどまでに、俺は彼女に泥酔している。