「派手にやったな」
彼女は全身見事に返り血を浴びている。
死の臭いを纏っていた。
右の指で器用にくるくると拳銃を回す。
彼女は答えた。
「そう?」
彼女は無傷だ。
そのことに俺は身体中が痺れる。
彼女の左手に握られた鮮血滴るチェーンソ。
「どこで拾ったんだ、そんな物騒なもん」
「さあ?いつの間にか持ってた」
どこまでも残酷で純粋。
彼女をA級兵に押し上げた才能。
彼女の瞳が光った。
もしかしたら。

気づくだけで、壊れてしまう物がある。
触れるだけで、溢れ落ちてしまうものがある。
俺は触れるわけにはいかない。
体温のない彼女の。
細い腕。
赤い腕。
俺は彼女の背中を見つめて。
「もう帰りたい」
彼女は呟く。
ぬるい声だ。
どうしてこんなにも。
彼女は人間なんだ。

徐々に生き残ったC級兵が集まりはじめた。
80人弱。

曇天。
輝き。
ドロップ。

雨足は強くなる。
一人。
また、一人。
C級兵がどんどん倒れていく。
ギリギリで生き残った連中の命を吸いとる残酷な雨。
一人。
骸の中に立ちすくむ。
小さな背中。
彼女の受けた反り血を流す優しい雨。
彼女は暗闇の中に立ちすくむ。
俺は彼女の肩を抱いた。
その意味はわからない。
でも、俺はその小さな背中を抱きしめたいと思った。

「帰ろう」
ゆっくりこちらに向けられた顔は、生きているのだろうか。
音もなく、彼女はうなずいた。
しばらく無言で歩く。
言葉は出てこなかった。
ジープの冷たいシートに座る。
エンジンを始動。
車は動き出す。
支部の方へ走る。
戦場の景色がバックミラァに吸い込まれていく。
俺は無線を取った。

「リチャード支部長に繋いでくれ」

俺の願いはすぐに叶えられた。

『サルバ、またナナセに逃げられたか?』
「お姫さんは隣で寝てるよ。ただ…」
『ただ?』
「荒れるかも」
『わかった。薬を用意させる』
「それ頼む。ああ、それから」
『なんだ』
「ちょっと殺しすぎた」
『言われなくてもC級兵なら補充しておく』
「毎回悪いな。じゃあ」

時々無性に昔の相棒が懐かしくなる。

…悪いな、浮気じゃないんだ。許してくれ?

雨はまだ、止まない。