前線に追いつく頃には、既に日は暮れていた。
状況は劣勢。
ごちゃごちゃとビル群。
その隙間にバリケードは築かれている。
破られるのはもはや時間の問題。
夜明けにはおそらく、総攻撃に入る。
俺は適当なC級兵を呼び寄せた。
「状況は?」
「はっ!、コルバノ署駐屯兵237名、全滅。現在ホセ署、アロズ署両部隊、総員569名でここを死守しております」
大丈夫だ。
問題ない。
「サルバ、わたしは前線にいる」
彼女は穏やかに言う。
あと数分後には、その表情を消してしまうのだろう。
「明朝にはあちらさん動くと思う…やり過ぎるなよ」
彼女は前線の兵士のもとへ歩いていった。
「B級」
彼女の背中を怒りと憎悪をこめて睨み付けるB級兵を呼ぶ。
彼は俺の前に立ち、敬礼をした。
「ナナセの援護について」
彼もさすがに露骨に嫌な表情はしなかった。
彼が彼女の後を追うのを眺めた。
俺には俺の仕事がある。まずは仮眠だ。
とても寝心地がよさそうな場所とは思えないが仕方がない。
俺は、その場に横になった。


「名前と戦歴は」
彼女は隣にやって来たB級兵に尋ねる。
「カジュ=シウバ、戦歴はC級7年と3ヶ月、B級2年目になります」
彼女は答えず、暗闇の中の戦線を見つめた。
どうやら向こうも動く気配はない。
彼女も仮眠を取ることにした。
「ナナセA級兵、作戦はどうしますか?」
彼女はバリケードにもたれた。
「ない」
カジュの問いかけに鬱陶しそうに答える。
「は?」
「さっさと仮眠とって」「しかし―…」
「黙って寝なさい」
彼は不満げではあったが彼女に従った。

闇が静寂を連れてくる。
不意に自分が戦場であることを忘れてしまいそうになる。
空気が高い。
美しい。
本当に。
美しすぎて俺は押し潰されてしまいそうだ。
自分の両手を見つめる。
それから、俺のところから少し離れた前線にいる彼女を思う。
俺は、
俺達は、
明日仕事をする。
明後日にはその手でラザニアを食べているかもしれない。
もしかすると、ボーリングをしているかもしれない。
それでいい。
いいじゃないか。
もう一度見上げた空を一筋の精魂が流れた。