「待てい!」

私はそれを耳にするなり、ぬれせんを置いて見得を切った。
いきなり歌舞伎テイストで待ったをかけられた二人はポカーンである。

「ナツ、それは違うわ。冬野君は浮気しないでしょ」
「何であんたが言い切るのよ。冬野の奥さんでもない癖に」
「じゃあちょっとアキ、あんた言ってやってちょうだい」
「いや、私は言い切れないよ?」
「うっそやーん!」
「何でいきなり関西弁だ」

私はうぅ、と唸った。
そしておずおずとアキに聞く。

「でも冬野君、今まで浮気はしてないでしょ?」
「うん。私の知る限りではね」

アキの返答は何とも煮え切らない。
俄然ナツが調子づく。三河弁で。

「ほれみりん!分からんみん!」
「そんなことない!」

売り言葉にすぐ乗ってしまうのが私の悪い癖だ。
そう分かっていて引けない事もよく分かっている。

「冬野君はそんな人じゃない!可愛い女の子が誘惑してきたって首を縦に振ったりしない!」
「じゃあ何?ちょっとやってみる?」
「上等だ!試してやろうってんじゃない!」
「よし分かった!」

ナツは、だん!とテーブルを叩き、がっ!とアキを指差した。

「アキぃ!」
「はい!」

何故か敬語で返事をするアキ。

「あんた、冬野をナンパしなさい!」
「はぁあー!?」
「こんなところでああでもないこうでもないしてるよりもやってみた方が早いでしょ?百聞は一見に如かずと言うじゃない」

ナツは鞄をまさぐり始めた。
アキは目を丸くして二の句がつげない状態である。無理もない。

「そこまで言うならやらない訳にはいかないわね」

私は押せ押せムードである。

「冬樹君がアキのナンパに乗ったら私の負けね。乗らなかったら二度と冬樹君が浮気するなんて言うんじゃないわよ?」
「じゃあ乗ったらこれから浮気で別れた時のヤケ酒はハル持ちね」
「えー!私実害デカくない!?じゃあナツもこれからまつ毛パーマタダにしてよ!」
「分かったわ!決まりね!」