成り行き上一緒に棚の前でおにぎりを物色しながら返事をすると、雪村さんはオーバーな表情で同情する。

「えぇー、先輩可哀そうー。私なら絶対先輩にそんなひもじい思いさせないのにぃー」
「いや、俺が勝手に食べなかっただけだから」

 適当に返事をしながらさっきの問題について考えていた。
 例えば、俺は、今横にいる雪村さんと浮気できるだろうか。

 答えは即座に出た。面倒くさいからしない。

「先輩、レジ、お先どうぞ」

 ニコニコとレジに並ぶ雪村さんに倣う。
話を振ってくる彼女に適当に相槌をうちながらその答えについて追及する。

 たぶん、俺はもう、新しく恋愛するスキルを持ち合わせていないのだ。 

今更相手を口説いたり相手の言動に気を使って一喜一憂とか、考えただけでも疲れそうである。
浮気する男はその辺うまくやるスキルが高いのであろう。

「きっとモテるんだろうなぁ」
「え?」

 思わず口を吐いて出た結論に雪村さんが反応する。
いやいや、何でもない、こっちの話、と慌てて打ち消し。

 そうだ、浮気する人はきっとモテるのだ。
だからスキルが高いのだ。
それ故に俺は浮気をしない。
しないというか必要がないのだろう。
モテないから。

「モテないから…」
「は?」


 気がつけばレジのお姉さんが俺の独り言を聞いていた。
 しまった、このままだと変な人だ。

「モテないから…袋に入れてください」

「はい」

 お姉さんは怪訝そうな表情をなるべく隠しておにぎりを袋に入れた。
 モテなくていい。俺は独り言を誤魔化すスキルが高めだからそっちを大いに使おう。
 根暗みたいだけど、とおにぎりを手渡されながら俺はちょっと思った。