しかしちょっと逃避したおかげで頭が現実に向き合う余裕を持った気がする。

目を閉じて控えめに深呼吸すると、俺は改めて目の前にいる二人に向き合う。

俺は今、二人の女性に告白され、一人選ぶよう脅迫されている。

一人は会社の後輩。
一人は嫁かもしれない本屋の売り子。

答えは出ている。
二人ともお断りしたい。

雪村さんはいい。家庭を理由にやんわりお断りすればいいから。
問題はアキだ。いや、アキかもしれない売り子だ。
他人のふりして告白してくるアキを俺はどうしたらいいのだ。

普通に『俺には家庭があるから』
と断って、後でドッキリかなんかで、ドッキリだとしたらハルやナツも噛んでるんであろう、
『自分の嫁も見抜けないの?わはははは』
とあいつらの間で酒の肴かなんかにされたら嫌だ。

かといって『俺もあなたが好きでーす』
と言ったら雪村さんに何かされそうである。

『アキでしょ?』とここで詰め寄って違ったら格好悪いし、正解だったとして雪村さんに先輩の嫁は変な嫁のレッテルを貼られても困る。

どうしようどうしようどうしよう。
冷静に高速で回転しろ、俺の頭。

答えを探すように手元に視線を落とす。
腕の中に踊る文字は、出来る部下で株を上げろとか、男の沽券とか、俺を助けてくれなさそうな言葉しかない。

いや、待て。
男の沽券は使えるんじゃないだろうか?

『男の沽券にかけ、俺はあなたたちとお付き合いすることはできません!』
って叫んで逃げちゃったらどうだろうか。

アキたちは男の沽券に適当に意味をつけて納得してくれそうだし、雪村さんはよく分かってなさそうだから後でもう一度何か言われたらその時どうにかすればいい。ドッキリだった場合も逃げちゃったからうやむやだ。

なんてったって男の沽券ってパッキリ意味があるわけじゃないところがいい。

これしかない!