ナチュラルは語調を緩めずまくしたてる。

「あんた冬野先輩に惚れちゃったから、その若さを武器に告白しようってんでしょ?」
「だったら何だってんですか?」
「バッカねー!冬野先輩には奥さんもいるし子供もいるのよー!あんたなんて無理無理ー」
「初対面にバカとかホントおばさんの教養疑っちゃうー。奥さんいる事とか知ってますし。毎月ご家族に雑誌買って帰ってるんですよ。おばさんこそ無理無理ー」
「…っ!」
「それに告白するくらい良くないです?おばさんこの人の奥さんってわけじゃないでしょ?止める権利ないじゃないですか」
「私は…こ、この人の彼女よ!」
「うっそだー!こんなに余裕のない不倫相手ソラ君が作るわけないじゃーん!」
「あんたいきなりソラ君とか何なのよ!」
「ほ…本を注文する時に名前知ったんです!」
「赤の他人が馴れ馴れしいわー!」
「そっちこそ初対面にいきなりブチ切れとか失礼だわ!」
「ついに本性現したな!このカマトト娘が!」
「アホか!舌っ足らずぶってヤンジャン買ってもらってんじゃないわよ!お小遣いが減るでしょ!」
「何変なポイントでキレてんのよ!」
「変なポイントじゃないわ!月末にお昼代が少なくなって毎日すき屋の牛丼になったらどうするの!」
「あーもー!あんたマジで何なの!」

ナチュラルが握りこぶしをわなわなと震わせた。
アキは相変わらず体制を崩していない。
しかし設定は崩れている。どこ行ったAKB。
ナチュラルはうぅー、と唸りながら体を屈めていたがやがてばっ、と上体を起こし、そのままの勢いで振り返る。

「冬野先輩!」
「はぁうわい!」

気迫に圧され蚊帳の外だった冬野はいきなり名前を呼ばれ、変な返事をした。
しかしそんな返事には二人とも関心を寄せず。

ただ、決着をつけるジャッジメンに判定を求めるように熱く、ビシッと命令口調でこう言った。

「冬野先輩!好きです!」
「私もソラ君が好き!」
「今からどっちか一人に決めてください!」

高圧的な告白。

一人は会社の部下で顔面詐欺。

もう一人は自分の奥さんで身分詐欺。

私は雑誌の束を抱えて立ちすくむ冬野に心から同情しつつ、
人の修羅場を楽しみつつ、 
『これ多分後で冬野に怒られる』と手に汗を握った。