いつもは子育てに追われ、家事を適当に素早く済ませ、いかにして自分の時間を確保するかを考えながら毎日を過ごしているんであろうアキ。
隣近所と幼稚園のお母さんと冬野のご両親との付き合いをそつなくこなし、子供と冬野が快適に過ごせる環境を提示し続けるアキ。
子供の喧嘩を涼しい顔で制し、ゲロを吐く私を暖かく迎え入れ、喧嘩っ早いハルをやんわりと諭す、お母さんがぴったりのアキ。

今、目の前でナチュラルのことを腹黒い顔でなじるアキはそれら『処世術を身につけた人のためのアキ』から解放され、学生時代の『身一つであらゆる難関を乗り越えてきた体当たり芸人のようなアキ』に戻っているように見えた。

私は体が熱くなるのを感じ、拳を握りしめた。
アキ、それでいい。己の全てを開放してこの戦いに悔いなく挑め!

視線を感じ横を見ると、ハルが私の顔を見つめていた。
多分思っている事が全てばれているんだろう。生温かい目を向けている。

「分かってんのよ!」
突然ナチュラルが語気を強めた。

見ればナチュラルとアキはチンピラがメンチ切りあってるみたいな物凄い気迫で間合いを詰め、冬野は部外者みたいな立ち位置になっている。