「あんた」
再び私の前に立ちはだかった彼女は、グロスだか天ぷら油だかでテカテカの唇を性格悪そうに動かし、私を威嚇する。
「冬野先輩に色目使おうってんじゃないわよね?ちょっと若いからって調子乗ってんじゃないわよ」

私より若い女の子から『若いからって調子乗ってんじゃない』と言われる日がこようとは思ってもみなかったが、この子の言動を見て、ははーん、なんて思う。

この子、ソラ君の後輩で、ソラ君の事狙ってんだ。
だからソラ君から見えない角度であなたより若い私を威嚇してるのね。
負けが見えそうだから噛みつこうってんのね?
でも、それが失敗ですよ?
ソラ君、背後でビビって引いてますよ?

でもって。

私、いつもはハルとナツの仲裁役だけど。
私たち三人の共通点って『売られたケンカは買う』なんですよね。

カチッとどこかでスイッチが入るのを感じ、私は心の中でにやりと笑った。

誰にケンカ売ってんの?

ケンカ売る前に相手の戦闘能力測って事しないの?

リアル子育て中の女の馬力なめてんじゃないわよ?

あんたのそのぺラい虚勢、私がビリッビリに破いてくれるわー!

「ごめんなさーい。当てつけみたいに若いカッコして。でもおばさんのメイクも可愛いですよー?」

私は今までの沈黙がウソのように話し、意地悪に唇を歪ませる。

目の前でテカテカの唇がひきつる。

戦闘開始だ。

何でこうなったか良く分かんないけど。