ベランダから続く8畳のリビングでは現在旧友のおかげで爽やかとは無縁すぎる光景が繰り広げられているのだ。

「うわー!もう男なんてイヤー!サイテー!バカー!ハゲてしまえー!」

朝っぱらから人のうちで焼酎をラッパで喰らい、フワフワの髪を振り乱して、ガーガ泣いているのがナツ。

「はいはい」

そう言って同調しながらも、涼しい顔してコーヒーを飲みながら新聞の株式欄を適当に眺めているのがハル。

「はいはい、ってちょっとあんた、超適当じゃない?私の事なんかどうでもいいと思ってんでしょ?あー!もう親友超冷たい!高校の頃はそんな人じゃなかったのにー!アナタハドコデ道ヲ間違エタノデスカー!」

「何でカタコトやねん」

とりあえず突っ込みを入れてハルは仕切り直した。

「いや、どうでもいいとは思ってないけどさぁ、正直な話、ちょっともう慣れつつあるわ…今回で何人目よ?」

「もう覚えてないよねぇ。多すぎて」

私が茶化す風で口を挟むと、あぁ…と急に芝居がかった動きでナツは床に倒れ込んだ。
そしてがばっと顔を上げ、

「ひどい!善良な迷える子羊に対してなんて仕打ち!この世に神はいないのか!仏はどこー!」

「どっちもあの世にいんじゃないの?」

小芝居には一瞥をもくれずに、ハルは鋭いんだか鋭くないんだか分からない突っ込みをしてカップを私に差し出した。

「アキ、おかわり貰っていい?」

「もちろん」

私はカップを受け取りコーヒーを注ぐ。
自分の分も注いだところで迷える子羊にも遠慮がちに聞く。

「ナツも、コーヒー、飲む?」

「コーヒーじゃなくて、さっきカエデとヒナタが飲んでた奴飲みたい」

 ナツは洟をすすりながら、それでもさっきよりは落ち着いた風で、台詞の殆どに濁点をつけた発音で言った。