「プレジデントって面白いですかぁ?」
自動ドアに向かいながら、そう言って雑誌の表紙を覗くふりをしてちょっと近づき。
首筋につけた香水で色っぽいアピール。
冬野が抱えた表紙には男の沽券、なんて文字が見えるけど、勿論雪村さんの脳味噌にはそんな文字はスルーで。
彼女はただどうしたら冬野がこっちを振り向くか、それだけを考えて動いているのですわ。

一方、本屋脇に待機中のナツとアキ。
ナツがおもむろに口を開きます。

「…アキ」
「ん?」
「アキさぁ、ホントは冬野が浮気するなんて思ってないでしょ?」
「…うん」
アキはバツが悪そうに素直に頷き、小声で、ごめん。
それをナツは口元を歪ませて笑い飛ばします。
「謝ることないわよ。私も思ってない」
「え!?そうなの!?」
驚きの表情を隠せないアキ。
その表情には「じゃあ私何の為に旦那をナンパするの?」という問題の根源に迫る疑問の色も読みとれます。

しかしそこんとこは無視して、ナツ。

「アキって結婚する時になってようやく冬野の事名前で呼ぶようになったでしょ?」
「うん、おんなじ苗字になるんだから冬野君、じゃいけないかな、って」
「あれね、凄く冬野が喜んでたの知ってる?」
「…知らない」
「なんかようやくアキが名前で読んでくれる、って。だから私言ったのよ。アンタ、男のくせにその乙女みたいな反応どうなの?って言ったらね」
「うん」
「変な話だけど、俺、ずっとアキにソラって呼んでほしかったんだよね。そうすることでアキの特別になれた、って感じがして、だって」
「……」
「ずっとずっと前から、冬野はアキのソラになりたかったんだよ」
「アキのソラか…」