こうして演出家と脚本家と主演女優は緻密そうなやり取りではあるが実はそうでもないシナリオを電車の中で練り上げ、駅のホームに降り立った。

ここがロケ地、冬野の働く町である。
「じゃあこのまま本屋に向かおう」
ハルの言葉に従い、歩き始める。

「今冬野は何してんだろうねー」
何となく、主演男優の名前を出してみる。

「ちょうどお昼ごはん食べてんじゃない?食べ終わったところかなぁ」
ハルが本屋の方角に視線を動かしながら答える。

「仕事の部下か何かと食べてんのかね」
「ソラ君はまだ部下とか居ないよー」
可愛いアキが可愛く笑う。
「どうするよ、可愛い女子社員とご飯とか食べてたら」
「あははは。腕とか組んじゃって?ないない」
「本屋に一緒に来たりしてね」
「んでヤンジャン買ってあげるんでしょ?」
「ヤンジャンかよ」

あはははーなんて和やかに。
私たちは目的地である本屋に足を進める。

ハルの勤める、本屋に。