雑誌くらいそこのコンビニでも買えるのに、と思いながらも、まぁ雪村さんとこいつも同期だから面識はあるしいいか、と思い返事をする。

雪村さんは大げさに喜んで見せた。

「きゃぁ、ありがとうございますぅ」
「俺もいますけ…」

そんな雪村さんに再び自身の存在を主張しようとした後輩は、雪村さんを見つめて語尾を濁した。
こちらからは雪村さんの表情は見えないが、後輩の顔つきが言葉にできない表情に変わるのはよく見える。

そして唐突に
「先輩、俺、仕事思い出したっす」
「え?急にどうしちゃったの?」
「お先に失礼します!」

後輩はデカい声でそう言い最敬礼をすると、こちらを向く事もなく去って行ってしまった。

「そんな唐突に…」

 小走りで遠くなる背中を見つめながら俺は立ちすくむ。そして、あいつ仕事熱心だからなぁ、と置いてけぼりを喰らわされた気持に整理をつけた。

「遠慮したんじゃないですかぁ?」

雪村さんは事もなさげにしゃらっとそう言い、ぐいっと、俺の手を引っ張った。

「さぁ、行きましょ、先輩。昼休み終わっちゃう」

 遠慮って。

後輩にいつまでも引きずられているのも格好悪いので、手を離して歩調を合わす。
そして、思う。遠慮って。

 同じ部署にいる一番近い後輩が、違う部署の同期に遠慮する理由って何があるんだ。雪村さんが遠慮するんならともかく。ヤンジャン貸して欲しかったのに。

まぁいいや、買って行ってやるか。

兎にも角にも、俺たちは目的地である本屋の自動ドアを二人並んで開くのだった。

ハルの勤める本屋の、ドアを。