ハルの勤めている本屋は会社から近く、彼女の好意により店員価格にしてもらえるので、月刊雑誌はハルに頼んで取り置いてもらっているのだ。

「先輩は何買うんですか?」
「プレジデントとディズニーの雑誌とたのしい幼稚園、と幼稚園、だったかなぁ」

俺だけ雑誌を買うと「お父さんばっかりずるい」と子供からブーイングを喰らうので家族の分まで買っているのだが、そんな内幕を知らない後輩には俺がマイホームパパに見えたらしい。
「さすが先輩!優しいですねー、ホント家族想いですねー」
「うるせい。冷やかすなよー」
「プレジデントから程遠いのにプレジデント買っちゃうところもいいですねー」
「マジで黙れ」
「すいません」

そんなやり取りをしていると、あ、こんにちわ、と背中から声をかけられる。

「あ、雪村じゃん」

後輩が振り向く。つられて俺も振り向く。

「うふ、やっぱり冬野先輩だぁ。朝も昼も会えるなんて奇遇ですぅ。嬉しいな」
「俺もいますけど」
「先輩、もう会社に戻るんですかぁ?ご一緒していいですぅ?」
「俺スル―ですか」
「ごめん、雪村さん。俺たち今からそこの本屋寄ってくもんで」
「えー!ホント奇遇ー!私も今日発売の雑誌を買いたいな、って思ってたんです―」
「お前、今会社に帰るって言ってなかったっけ?」
「先輩、ご一緒していいですかぁ?」
「俺いつまでスル―ですか?」
「や、別にいいけど…」