二重世界

(こいつ、勝手な事を……!絶対お前の顔を目に焼き付けてやる)


少し歩くと、やや広めの部屋に着いた。
そして私は椅子に座らされる。

視線は相変わらず斜め下を向いたままだけど、他に人の気配を感じた。


「うう……。なぜ俺が……」


(男の人?顔はわからないけど、声は若い)


「今までよく働いてくれたな。もう用済みだ。お前は戸籍上既にこの世にいない人間。まずはお前から殺すか」


‘あの男'が、私から離れていくのがわかる。私はそっと目線を上げた。

男はスーツを着ており、身長は高め。亮ちゃんと同じくらい。髪は耳に少しかかるくらい。痩せ型。

私は必死にこの後ろ姿を目に焼き付ける。

男が向かった先には、両手足を拘束され、目隠しをされた色白の男性。白いTシャツにジーパン。


‘くそ、この目隠しさえ外せれば…!'


(え?心の声?目隠しをされたあの人の声だ)