それ以上入ると人目につかなくなる



男の手が女の髪をぎゅっと握ったのが見えてアタシは目をそらした



痛いの、それは、本当に

髪には神経が通っていないけれど

痛いの、本当に



携帯を握っていた手が大げさに震え出した

一気に体が放熱してしまって、今度は寒くて凍える



うつむいて震えを押さえようとしていると、目の前をキレイに磨かれた革靴が横切って、突然背中の痛みを思い出した


その瞬間駐輪場から自転車同士がぶつかる音がして


聞きたくないのに、全神経がそちらに集中する



多くの人には聞こえない程度の声は明らかに怒っていて、その合間に抗うような女の声が混ざっていた



(キャアッ)



一瞬聞こえた声にアタシはビクッとして、足から力が抜けてしまった