「まずは、あなたの名前ね」

 いつになく慎重な口調で彼女は言った。

「な、名前って・・・言う必要があるの?」

「当たり前でしょ。あなたの名前はあなたを表す記号なんだから」

「いや、そうじゃなくって・・・」

 ぼくは、幼馴染みの彼女にいちいち自分の名前を言う必要があるのかどうか非常に迷った。

「いい?カーン。これは一種の儀式なの。あんたがあたしに明日の大会の行方を占って欲しいって言うからこうしてわざわざあたしの貴重な時間を割いてあげてるって言うのにどうしてあたしの言うことを聞けないの」

 うう、いつもの口調で一気に捲し立ててきた。

 よくもまあ、舌が回るものだと感心する。

「カーン」

「は、はい」

「あたしの話、ちゃんと聞いてるでしょうね」

「うん、聞いてます聞いてます」

「まったく、集中力って物が無いんだから」

 彼女は一つ溜め息。

 好奇心旺盛なよく動くアーモンドアイでぼくを見つめる。

「いい、最初からやるわよ」

「はい」

 栗色の短いけどさらさらで艶やかな髪を右手で掻き上げ、彼女はじっとぼくを見つめた。

 どきどきするなぁ。

 彼女の呼吸が顔で感じられるほど近い。