なぜなら、元々この物語が完成していたのは【設定】上の話。本当は全く完成していない「作りたての物語」だからだ。

人物を簡単に考えただけで、物語構成などない、まさに生まれたての小説だった。

物語の先が分からなかったのはそのせいだ。

枕元に置いてあった紙には、人物紹介と章の区切りだけが書かれている。

偶然にも、トリップの条件がそろった時、考えた人物とその紙を枕元に置いてしまったのだ。

『その世界の構成』

それが満たされ、未完成の物語の世界に、2人は飛ばされた。
枕の上には2冊程度のノートがある。今までの物語を詰め込んだ、あのノートだ。

「そういこと・・・なんかな?」

そう、未完成のはずなのに進んでいく物語。こうなのではないかとキャプテンは考えた。

この物語は「話に沿った生活」ではなく「向こうの生活を物語にした」と言うことになるのではないか、と。

つまり、あの生活はシナリオで進んでいたのではない。自分達の意志で作ってきた物語だったのだ。

そして、それはキャプテンやエリカ以外にも、その他の人物たちもそれぞれ、自分達で切り開いた部分がある。それと、彼らの心情の変化だ。

人物紹介では分かりやすいこと(仕事など)しか書いていなかったのだが、ノートに書いてあった、それぞれの視点から見た物語のほうでは、ずいぶんと人物たちの心情がいい方向に変わってきている。

この本には、キャプテンのようなメインはいても特別な1人の【主人公】は存在しない。色々な視点で作られ、全員でそれぞれ切り開いてきた物語なのだ。

だからだろうか、小説の題名は「トリップ」のはずなのだが、こう付け足されている。