「奴隷制度をやめます。奴隷身分を全て訂正し、国民皆、平等に生活させるんだ」
その言葉に父は一歩前に出た。
「お前が後継者だからと言って、私に決定権がない訳ではない。私は許さない」
冷え切った言葉に嫌気が差した。
母は、魅楼を見つめていたが、やがて目を逸らした。まるで、もう何も関係ないと言っているようだ。
「それでも嫌ならば、出て行ってもらおうか。確かに、後継者はお前だが、この城はまだ私のものだ。ここでは私が規則だ。さぁ、出てけ!」
父はもう一歩前に出た。勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
魅楼はそれが背中を押す言葉に感じた。
「あぁ、いいさ。父様がそう思い、改心さえしようとしないなら、俺は出て行く。俺が死んでしまったら、国は壊れる。次の後継者が生まれない限り、ね」
「馬鹿な真似を・・・」
憎憎しげに父は言った。
まさかこれでも奴隷制度を諦めないなど思っていなかったのだろう。父や母は、顔が引きつっていた。
魅楼は、先ほど父が顔に出した“勝ち誇ったような笑み”を浮かべ、言った。
「馬鹿な真似をしたのはどっちです?」
魅楼は父と母を見据えた。
「俺はあなた方を裏切った。だけど、それ程俺の決心は固いんです。理解しがたい事だと思います。あなた方にはね・・・」
魅楼は門番と両親に背を向けた。
「こんな息子、あなた方が追ってくるはずもないでしょう。だから、これで縁を切ります」
魅楼はそのまま走り出した。
母が手を静かに伸ばした姿を、父が横目で見ていた。
門番は何をしていいのかわからず、ただただ呆然と立っていた。

異質な後継者が走る。後先も考えずに走る青年の背中を、彼の両親は最後まで見つめていたのを彼は気付かない。
そして何より、城の外は奴隷身分を作った後継者の居場所がない事を彼は忘れていた。
小さな小さな青年が一人、争いを拒み、優しい性を背負い、運命の重さを知る。