「確かに、ねぇ」
先ほどの緊迫した状況が一転した。
何がおかしいのか、翠柴は声を押し殺しながら笑っている。
紅蓮も顔を緩めていた。
「そうだろう?」
霧澄は確信を持ったように自信あり気に言った。翠柴はその言葉に頷いた。
「ほーんと、偶然なのか、必然なのか・・・」
翠柴は笑いすぎて出てきた涙を拭った。
「偶然なんてねぇよ、出会いは全て必然さ」
「違いねェ」
霧澄の言葉に紅蓮が鼻で笑う。
周りの人も皆、顔を緩めていた。が、一人だけ笑えない人が居た。そう、魅楼である。笑っている理由も知らなければ、いきなり笑い出した皆への驚きもあるからであった。
翠柴は魅楼に目を向けた。
「もしかして、後継者って言う肩書きだけで、彼を見てたわけじゃなかったかも」
「あぁ、そうだな」
翠柴は手を出した。最初は何かと少し警戒していた魅楼だが、握手を求めてきたとw買った。魅楼は服で手を拭いた。泥やら砂やら汚いからだった。
「ふふ、いいよ。どうせ僕の手も汚いし」
翠柴は手の平を見せると、悪戯っぽく笑った。
翠柴の手は、黒く汚れていた。
「ホントだ」
魅楼も笑った。
「おいおい、霧澄。何で翠柴がこんな友好的なんだよ」
紅蓮は不満げに声を荒げた。
「お前といい、こいつといい。俺ァ翠柴とはお前らより長い付き合いだってのに、皮肉と嫌がらせしか言ってこねぇじゃねぇか」
魅楼と霧澄を交互に見た。霧澄はその様子を見て、「本人に聞けよ」と呟いた。
「僕は、紅蓮はドエムだと思ってるからね」
翠柴の笑顔は恐ろしいほど黒かった。紅蓮は顔を引きつらせ、目を逸らす。翠柴は二コリと笑って、魅楼と霧澄の腕を引っ張った。
「さ、馬鹿は置いといて、歓迎会でもしますか」
「おい、馬鹿って誰の事だ。あ、おいコラ」
紅蓮の叫びを無視し、強引に二人の腕を引いた。二人はされるがままに引きずられていく。紅蓮は文句を言いながらついてきた。
広場の奥の通路を進んだ。
足音が響く。四人は無言で歩いた。蝋燭の火が揺れ、それに合わせて人の影も揺れる。