魅楼は霧澄を見たが、霧澄の目は誰とも合っていなかった。翠柴は首を横に振り、紅蓮は天井を見つめた。
魅楼が霧澄に話しかけようとした時だった。急に霧澄が口を開いた。
「確かに、俺ァ後継者なんか大嫌いだ」
いきなり声が聞こえた事に、二人は驚いた。周りの人も皆聞いていない振りをしているが、聞き耳を立てていたのがわかった。二人と同じく霧澄の声にビックリして肩を震わせたからだった。
霧澄はため息をついて、広場に居る人皆に伝わる大きな声で言った。
「だけどな・・・」
霧澄の顔が曇った。その様子に紅蓮は目を見開き、翠柴は目を細めた。異常だと感じたからだろう。先ほどの殺気が漂う雰囲気は、いつの間にか消えていた。
「こいつが・・・あの人と重なっちまって、どうにもこいつを殺す事さえできねぇ」
霧澄は、自分の髪の毛をクシャリと掴み、俯いた。茶色に輝く髪がユラユラ揺れた。
“あの人”と言う言葉に、皆が反応した。特に翠柴と紅蓮は目を見開き、間を置いて霧澄と同じように、顔を曇らせる。
「俺はまだ、あの人とお前らとの想い出を鮮明に思い出すんだよ。顔は似てねぇけど、俺にはこいつは殺せねぇ・・・」
「霧澄・・・」
翠柴が思わず霧澄の名を呼んだ。だが、その言葉も静かに消えた。
紅蓮は地面に目を向け、紅の背中まである長い髪の毛を揺らした。
「霧澄、お前の言い分はわかった。お前の想いもな。だからもう何にも言わねぇよ、お前を責めたって何にもならねぇし、あの人のことを引きずってるのはお前だけじゃねぇ。俺も引きずってるのには違ェねェからな」
紅蓮はため息をついた。そして辺りを見回した。周りも皆、紅蓮に返すように頷く。霧澄は小さく頷いて魅楼の方を向いた。
「魅楼サンよ、戦いてぇんなら強くなれ。俺ァアンタの面倒は見れねぇからよ」
その言葉に紅蓮が反応した。
「は?後継者サマが戦う?」
霧澄はいち早く反応して答えた。
「あぁ、俺も心外だがな」
翠柴は顔を歪めた。だが、魅楼は言った。
「俺は、皆と一緒に過ごしたい。死ぬ覚悟はできている。戦って、学んで、立ち向かう。俺なりの、後継者への抵抗だ。俺は――」
魅楼の言葉は洞窟の壁に跳ね返り、よく響いた。
「後継者ではなくて、一人の人間としてここに居させて欲しい」