霧澄は魅楼を睨んで、背中を向けた。
「ついて・・・こいよ」
霧澄の声は震えていた。

森の中を歩いた。
霧澄はまるで自分の家のように黙々と進んだ。方向を確認しなくてもわかっているらしい。霧澄の背中から離れないようにするのに精一杯で、森を見回すことさえできなかった。
霧澄の動きが止まった。いきなり止まる霧澄に合わせて止まろうとしたが、足が動いてしまい、霧澄の背中に鼻をぶつけた。霧澄は魅楼よりも少し身長が高いから、霧澄が見る目の前が見えない。背伸びをして霧澄の前を見ようとしたが、霧澄の身長のほうが高かった。
ぶつかったことにビックリした霧澄は一旦魅楼の顔を見たが、再び前を向いた。
その時に一瞬だけ前が見えた。
草の壁があったのだ。
霧澄は足を前に出す。
進むのだろうか。このままでは壁にぶつかる。と、思ったが、霧澄が手を草に突き出して掻き分けると、草の奥は大きな洞窟があった。
「う・・・わぁ」
魅楼は思わず声を出した。
秘密基地みたいだ。草をどかせば洞窟なんて、すごすぎる。
霧澄は感動している魅楼を横目で見て、ため息をついた。
歩けばコツーン、コツーンと響き渡る。水滴が落ちる音もする。暗く、狭い通路だが、蝋燭の火が明かりとなっている。歩いたときに起きる風が蝋燭を揺るがす。
出口が見えた。と、言っても洞窟の出口ではなく、格段に明るい広場が見えたのだ。
霧澄の後を追い広場に足を踏み入れると、たくさんの人の姿が見えた。五十人ぐらいだろうか。
魅楼は躊躇いがちに霧澄の背中についていった。
すると霧澄に向けて、声が聞こえた。
「おい、霧澄。そいつァ誰だ」
声の主の方に顔を向けると、男が立っていた。確実に魅楼よりは年上だろう。長身が第一印象の男だった。だが、そんなに年は離れていないだろう。背中まで伸ばした髪は細く、紅を含んだ茶髪でキラキラしていた。
「それより紅蓮、お前・・・」
霧澄は顎に手を当てる。紅蓮と呼ばれた男は霧澄の顔を見た。