沈黙が重かった。なかなか返事が返ってこないことが不審に思って、ゆっくり目を開けると、霧澄は正面に立っていた。
先ほどの殺気が篭った視線とは違い、単純に驚いている目だった。
それもそうだろう。今まで当たり前のように人間を駒代わりに扱ってきた後継者の末裔が、何の利益もないような、ましてや自分を危険に晒すような事を、他人の為にすることなんてなかったのだから。
「あ、あの・・・霧澄?」
あまりにも返事がないもので、目を開けたまま気絶してるんじゃないかと思い、声をかけた。すると、ハッとしたように目を見開かせた。
魅楼は首をかしげた。
「本気かよ」
霧澄が口を開いた。何も感情が読み取れないほどの無表情だった。
魅楼は悪寒を感じた。再び殺気を感じたからだ。
「あぁ、本気さ。俺はこの戦争に命を懸ける」
「じゃあ、俺が殺す」
霧澄が返した言葉に、魅楼は耳を疑った。
殺す?何故。
「お前が戦争で死んでもいいって言うんなら、俺が息の根を止める。俺は後継者が大嫌いだからな」
霧澄はニヤリと笑い、大嫌いという言葉を強調した。
死ぬということには恐怖はなかった。だが、魅楼には決意があった。まだ何もやっていないのに死ねるはずがなかった。
「死なない、俺はまだ死ねないんだ。俺は後継者として、一人の人間として、国の状況を知り、霧澄たちを知りたい。だから殺すと言うのなら全力で抵抗するよ」
これは本心だった。魅楼の決意が揺らぐ事はなかった。
霧澄はチッと舌打ちした。
「そうかい、じゃあ教えてやるよ。長年駒として扱った兵士たちをよ」
魅楼を見つめる霧澄の瞳は、悲しさを帯びているようだった。まるで、懐かしい友人を見かけていたような。