森の中を彷徨った。葉の靡く音は相変わらずだった。だが、人の話し声は聞こえず、空を見れば、変わらず空は紅く染まっていた。
「まずいな・・・」
魅楼は焦りを隠せずに居た。
空が紅く染まっているということは闇の国に近づいているという事。つまりこの辺りは“零”、境界線だ。
魅楼がもし一般市民ならまだいい。だが、後継者ともなると、闇の国に一歩入れば命はない。情けだってかけてはくれないだろう。後継者は戦争の中心なのだから。
あまり地形を把握していない魅楼には、この森はとても危険なのだ。
魅楼は無我夢中に葉を掻き分け、前に進んだ。と、その時だった。魅楼が前に出した足がどんどん沈んでいった。そして、バランスを崩し、前に身を倒してしまった。
「どうして、予測できなかったんだ」
魅楼は呟きながら転がった。呟く、と言っても声には出せてないのだが。
この森の中だ。崖になっているところがあることだって想像できただろうに。焦りすぎて逆に窮地に陥った。
魅楼は身を丸めて転がり落ちた。幸い下は木で、かすり傷で済んだが、もし気がなかったらと想像すると目を瞑ってしまう。
「慎重にいけよ」と自分に言い聞かせた。
服が破けていた。さっき落ちた時に枝にでも引っ掛けたのだろう。
魅楼は服をじっと見つめた。
綺麗に着飾った服が心なしか憎く見えた。
この服だけで、どれ程の国民の税が費やされていたのかと思ってしまったのだ。あまりにも腹立たしくなったので、近くに見えた沼地に身を投げた。
汚してしまおう、そう思ったのだ。
体重を地面に預ければ、沈んでいった。深い沼地ではないようだ。
魅楼はいきなりハッとし、再び後悔した。
「底なし沼だったらどうしてたんだよ、馬鹿」
自分の無謀さに、魅楼は一人で頭を抱えた。
これからどうすればいいのか。父と母に啖呵切ったって、当てもないのに飛び出して。自分は一体何がしたかったんだと、今更悶々と考えた。
魅楼は泥だらけの服を見つめた。
「さっきより、ましだろうな」
魅楼は笑った。だが、空しくなるばかりだった。
魅楼は沼から足を出し、辺りを見回した。そこにあった岩を見つめ、座り込んだ。