「では、第一回おじいちゃんは約束をはたして果たしたのか計画会議を始めます。」

「「……。」」

いくらなんでも安直で長すぎるタイトル。

突っ込む気にもならなかった二人は、黙って次の言葉を待った。

「まず、今日の議題。はい、ゆきちゃん。」

無茶ぶりに、カップを取り落としそうになる。

「…え?」

「約束。知ってるのはゆきちゃんだけ。ボタンってなんのことかなぁ〜?」

両親にも頑なに言わなかった約束の内容。
すぐ教えてくれるわけがない、と春樹は思う。

だが、ゆきはさらっと答えた。

「ボタン、牡丹雪の、牡丹。」

「…花の?」

と補足して聞き返す春樹。

「そうよ。」

まさに、とゆきが頷く。

「牡丹が、どうしたの?」

会議が始まってすぐ、核心に触れた。

「…、」

苦い顔でうつむくゆき。

少女の心の溝は思ったよりも深そうだ。

だが、意を決してゆきはゆっくりと語り始めた。


「牡丹って、どんな意味があるか知ってる?」

「…花言葉は確か…壮麗とか高貴。王者の風格…だったかな。」

「へぇ、僕知らなかった。」

「…あたしね、牡丹が嫌いだったの。」

「なんで、また?」

「だって…花がぼとんって落ちるから。まるで首から上だけ落ちるみたいに、見てて気持ち悪かったの。」

春樹は実物の牡丹を見たことがない。
お見舞いの花はたいてい、香りの薄いスイートピーやカーネーションやガーベラ。

病院の玄関に牡丹が植えられていたが、あれは葉牡丹だ。

「でもね、おじいちゃんはね、牡丹が花の中で一番好きだって言ったの。
どうして?って聞いたら、あたしが牡丹のようだからって。」


形容詞に花を持ち出すとは、おじいちゃんはよっぽど孫を溺愛していたのだろう。
でも、凛としたゆきの持つオーラは花のように清らかで澱みない。