よく噛んで、ゆっくり味わった朝食。

三十路過ぎを呼び捨てにすることの了承を得、年の近い春樹の事は、春、と呼ぶことに決まった。

少し不思議な家族だが、とても和やかな雰囲気で、ゆきは自然と心を開いていた。


食事を終え、皆で片付けをする。

「あ、春樹くん。」

お皿を洗いながら、隣で拭いている春樹に夏が声をかける。

手元の茶碗を丁寧に拭きながら春樹が耳だけ夏に預けた。

「今日は午前中の勉強はなし。んで、ゆきちゃん。」

春樹の拭いた食器を戸棚にしまっているゆき。

「この後はちょっと話し合いな。計画を立てなくちゃ。」

ひとり納得してにんまりする夏に、春樹とゆきは首を傾げた。


謎の多い夏の考えていることなんて、謎そのもの。

気にするだけ無駄だが、春樹にとっては少し歯痒くもある。

春樹は夏を尊敬していて好きだから、理解してもっと仲良くなりたかった。

思い出の蔵にも、また行きたい。


「おし、んじゃ春樹くん、お茶っ!俺は玄米茶ね。」

片付けが済み、割烹着を脱ぎながら、お茶係の春樹に遠慮なく夏が注文する。

「はーい。ゆきちゃんは?」

「え、じゃあ同じの。」

「玄米茶でいいの?」

「なんでもいいよ、緑茶、烏龍茶、こぶ茶、紅茶にハーブティー。」

煎れるのは春樹なのに、夏が注文を取り直す。

「じゃあ…紅茶。」

「レモン?ミルク?」

「ミルク!」

「じゃあ僕と一緒だ。甘めでいい?」

「うん!」

ふんわり笑うゆきに微笑み返して、春樹はお茶の準備にかかった。

綺麗なえくぼが印象的な春樹の笑顔。

ゆきは少し顔を赤くした。

もちろん、その様子を見逃さなかった夏。

一人でにんまり。