ゆきが洗顔を終えてダイニングに行くと、テーブルの上にはすっかり朝食が整列していた。
6脚ある椅子の真ん中に春樹が座り、向かいに夏。
春樹の隣に整えてある朝食がゆきの分だろう。
いそいそとその前に腰掛けると、じゃあ戴こうという夏の掛け声と共に、春樹と夏が両手を合わせる。
ゆきも習って合わせた。
「「いただきます!」」
「い、いただきます…」
温かでいい匂いの朝食。
ゆきの家では考えられないような献立。
朝はトーストと何かフルーツ。
フルーツも、生のものはあまりなくて缶詰がほとんど。
おみそ汁なんて久々だ、と思いながらゆきはお椀に口をつけた。
「おいしい…」
「お、お口に合って良かった。」
斜め前に座る夏がにんまりと口角を上げる。
こういう笑い方は…初めてだ。
「夏くんはこう見えてプロ顔負けの料理の腕前なんだよ。」
おいしそうにもぐもぐしながら言うのは春樹。
「こう見えてって…どう見えるんだ?」
「…鏡なら洗面所にあるよ?」
「…最近生意気だぞ、春樹くん。」
軽口を叩きながら楽しそうな食事風景。
こんなのも、久々だ。
「すごく…おいしいです…」
誰かと食事をするのが。
そういえば、おじいちゃんと食べる食事はいつだって美味しかった。
どんなものだって。
まるで魔法のように、誰かと食べる食事は美味しくなるエッセンスが降り懸かる。
じん、と体の奥が熱くなった。
一口、一口、噛み締めながら箸を運ぶゆきに、夏が思い出したように話しかけた。
「そうそう、ゆきちゃん。ここでは敬語や堅苦しいのは禁止だからね。」
「もう、また夏くんてば。強引だよね。」
「ほら、春樹くんも遠慮ってものを知らないしさ。」
「僕の態度は夏くん仕込みだよ。」
「え…あの…」
「ほら、困ってる。」
「んー、とりあえず、夏さん、はやめてね?」
「…じゃあ…夏?」
「あははっ!いいねぇ、可愛い子に呼び捨てされる三十路過ぎっ!」
「ええっ?!」
「ん?どした、急に。」
「だって、22歳くらいだと思ってたから。」
「あはは、夏くん、若作りだからね。」


