有料散歩




挑むような目を向ける少女。

窓の外はとっくに闇に覆われて、街灯なんてひとつもない山の上。

微かに香る夕飯の匂いに似合わない微妙な空気。


敏感に感じ取ったのは、夏。

「差し出がましい事は承知で提案します。ゆきちゃん、おじいちゃんは多分約束を果たしてくれるよ。」

「…は?」

怪訝な顔をしたのはゆきの隣に座る母親。


「まぁ、但野さん。なにか名案でもありそうねぇ。」

ほんわか笑う母さん。

爽やかに笑顔を返し、夏は続けた。

「ええ、ゆきちゃんのおじいちゃんは嘘をつかない方なのでしたら、きっとどんな形であれ孫娘の声を聞いていると思います。
…だからゆきちゃん、おじいちゃんはもう探せないけど、

…おじいちゃんとの約束を探してみないか?」

「約束を?」

「そう。おじいちゃんとの約束がちゃんと果たされたか、その行方を探してみようってこと。」


しばらく思案していたゆきが小さく頷いた。

その様子に、母親は驚き、母さんは微笑み、春樹は抑えていた胸を撫で下ろした。

実はさっきから緊張した空気に呼吸がうまくできなくて、胸が苦しかったのだ。

まっさきに気づいたのは夏で、すかさずこの空気を緩和しにかかった。


「おし、じゃあ、その約束をしってるのはゆきちゃんだけだからね。どこに行ったら探せるかな?」


「…ここ。」

「ここ…ってこの家?」

こくんと頷くゆき。
遠慮がちに春樹と母親を見る。

「まぁ、それなら見つかるまでここに居たらいいわ。春樹くんもお友達が出来るしいいわよねぇ?」


「うん、もちろん。」

ゆきが可愛そうだとひどく同情していた春樹はすぐに答えた。


鶴の一声ならぬ夏の一声で、ゆきはおじいちゃんにもう会えないことを納得した。

本当にあっけなく。

もう探せない、探しても会えない。
でも、おじいちゃんとの約束を探すことはできる。


一体どんな約束事なのか。

それを知っているのはまだゆきだけだった。