有料散歩




頑なな少女はあくまでも、おじいちゃんに会うまでは態度を崩さないつもりらしい。
春樹に告げたように、紳士的で優しい祖父だったのだろう。孫娘がこれほど慕う人ならば、会ってみたかったなと春樹は思った。

しかしそれは叶わない。
ゆきにとっては耐え難い事実なはずだ。会ったことのない春樹だって、こんなに胸が苦しいのだから。



困惑した母親は大きくため息をついて、両手でゆきの頭を無理矢理上げさせた。

「ゆき、いいかげんにしてちょうだい!こんな…他人様に迷惑かけて!」

声を張り上げた母親に、泣いてぐちゃぐちゃな顔の少女。

見ていて気持ちのいいものではない。
なんとか穏便にならないかと春樹は口を開いた。

「…僕は…迷惑だなんて思ってないよ。」

「…そうね、ママも思ってないわ。」

優しく微笑んで同意したのは母さんだ。

「それで…ゆきちゃんはどうしたいのかな。」

おっとりと、なんでもないことのようにさらりと母さんがゆきに尋ねた。

「おじいちゃんに…会いたいの。約束したの。まだね…約束果たしてもらってないの…。」

「だから、ゆき。その約束ってなんなの。」

母親のその質問にはぎゅっと唇を引き結びうつむくだけだ。

「はぁ…、すみません。ずっとこんな調子で。何か義父と大切な約束をしたらしいんです。その内容は教えてくれないんですが…。」

亡くなった事を認められない程の約束。

果たされることのない約束。

約束をすぐ忘れるのは大人だけ。
まだ無垢で清らかな少女が心を捕われるには十分な理由だった。


「ゆきちゃん。」

母さんがゆきに、ゆきだけに話しかける。

春樹の母さんはとても優しい。どんな小さな事だって、まっすぐ向き合うのだ。
春樹の小さな日常の話しにも、小さな悩みや悲しみにも、春樹の小さな成長にも、まっすぐ向き合い話しを聞き、諭し、喜ぶ。

雰囲気だけでも場が和やかになる母さんに、ゆきも涙を留めて向き合った。


「ヒントをくれないかしら…。おじいちゃんとした約束の。」

「…ボタン。」

「そう…じゃあゆきちゃんはその約束、ちゃんとおじいちゃんは果たしてくれると思う。」

「おじいちゃんは、あたしに嘘ついたこと一度もない。」