「おじいちゃん…おじいちゃん…。」
なんだか訳ありのようである。
少女の涙に免疫のない夏と春樹は、あたふたしながらもとにかく落ち着かせようと必死になった。
春樹が少女をリビングソファーに座るよう促し、夏は蜂蜜入りのホットミルクを作った。
あとは少女の向かいに並んで正座して、泣き止むのをじっと待った。
はたから見たらなんだか可笑しい光景だが、当人たちは至って真剣だ。
その気持ちが伝わったのか、次第に落ち着いてきた少女がようやく口を開いた。
「あの…ごめんなさい、突然。」
さっきまでのふてぶてしい程の言動とは裏腹に、しおらしく頭を下げる。
「や、確かに突然でびっくりしたけど、何があったのか…聞いてもいい。」
こくんと頷く少女。小さく鼻をすすって、何を尋ねられるのかと身構えた。
「じゃあまず、君の名前は。」
「柊ゆき…。」
「ひいらぎ、ゆき、ちゃんね。で、なんでおじいちゃんを探してここに来たの。」
「…ここはおじいちゃんの家だから…。」
夏は春樹を見た。
ここは春樹くんの家じゃないの、という疑問を目で訴えていた。
「…母さんが…前に住んでた人がいたって言ってたかも。」
「あ、新築じゃないんだ。」
「リフォームしただけだよ、山ごとこの家を買ったみたい。」
「じゃあ…前の住人ってか、この山の元々の所有者がゆきちゃんのおじいちゃんってこと、かな。」
「たぶん…。」
自信はないが春樹が頷いた。
「えーっと、こっちの春樹くんがこの家の今の主で、俺は夏。お手伝いさんなんだけど。」
一応の自己紹介を踏まえると、ゆきは交互に春樹と夏を見据えた。その瞳にはまだ不安の色がくすぶっていたけれど、相手の名前を知った事でいくらかは落ち着いた。
「春樹くんの両親が、この山も家も買い取ったんだ。それってゆきちゃんのおじいちゃんから買ったんじゃないのかな。何か聞いてない。」
ゆきはぶんぶん頭を振った。
「おじいちゃん…いないの…。」
質問してるのか肯定してるのか判断しかねる語尾だ。
「もう、ずっと会ってなくて…ここに来れば居るって思って…。」
最後の方は震えた声が掠れて漏れたようにゆきが話した。


