「春樹くんは、自分が病気で生まれて、ご両親をがっかりさせたと思ってるんですよ。」
口ごもる春樹に代わって、きっぱりと夏が言い切った。
「夏くんっ!」
「だから適当に名付けたと。」
父さんが渋い顔をする。怯むことなく夏が続けた。
「はい、なので直接聞いてみるようにと。差し出がましい事でしたら申し訳ありません。」
「…いや、春樹はずっと誤解したままだったかもしれないからな。」
父さんは夏に微笑み、春樹をまっすぐ見つめた。
「春樹、春樹の名前はな父さんが生まれる前から決めていたんだ。」
「生まれる前から。」
「そうだ。出産予定が3月の終わりくらいだということで、色々な命が芽吹く春という季節から貰った。」
「命が芽吹く春…」
「そうだ。一年で一番生き生きとした季節だ。生き生きと育ってほしかった。」
「じゃあ、春樹の樹は。」
「春樹は、世界樹という木を知ってるか。」
「ううん、知らない。」
「そうか、北欧の神話でな。世界を全て支える巨大な木なんだそうだ。幹や根で総ての世界を繋いでいる。世界が終わっても世界樹はなくならないそうだ。春樹の樹は世界樹から貰った。」
「世界樹…。」
「世界樹のように、太くでっかく、総ての世界に分け隔てなく通じていける。とにかく心もでっかく育ってほしかった。」
「…。」
泣きそうになった。ちゃんと春樹の名前には理由があって、しかも凄く深い。
いっぱい悩んで考えたんだろう事がひしひしと伝わった。
「…予定よりも2ヶ月以上も早く生まれてきたから、春はおかしいかとも思ったんだがな。父さんは生まれてきた赤ん坊を見て、絶対春樹とつけようと思ったんだ。」
春樹は泣き笑いの顔で父さんを見つめた。
父さんも笑って返してくれる。
横で黙っていた母さんがクスクス笑って付け足した。
「早産になっちゃってね、パパすっごい落ち込んだのよぉ。俺が早く出てこい、早く出てこいって急かしたからだって言って、まだ目も開いてない春樹くんに謝ってたわ。」
「母さん、それは言わない約束じゃなかったかな。」
あらいいじゃない、と母さんが笑う。
昼間見た木の思い出が蘇り、春樹は上手く嵌まらなかったパズルのピースがピッタリ収まった感じがした。