広い浴室には、大きな浴槽がついている。
春樹が足を伸ばして入っても、ゆうに余るほどだ。もしかすると長身の夏が入っても余るかもしれない。
心臓に少しでも負担をかけないように、腰の少し上までしか水嵩のない浴槽に、春樹は浸かっていた。
体を温めるために少し長めの半身浴。
ただ、長すぎてもいけない。血行が良すぎるのも、心臓に負担がかかるのだ。負担のかかった心臓は疲れてしまって動きが遅くなる。
普通の人が普通にこなす日常生活も、春樹にとっては危険と隣り合わせ。
でも春樹はお風呂が好きだ。
そういえば、まだ露天風呂は使っていない。
浴槽の淵に腕を組んで、冊子扉の向こうを見る。
夏が掃除したのだろうか。母さんと覗いた時よりも石の浴槽が綺麗になっていた。
「ふぅ」
と声には出さず、鼻から出た息が浴室に響く。
「…はるき、春の樹…。」
名前。それは子供が一番始めにもらう親の愛情だ。
木の思い出は太く逞しく、生命力に溢れていた。ただ、自分と重なるところが何も思い浮かばないのだ。
一体どんな理由でつけた名前なのか考えていたが、のぼせてしまったのかまとまらない。
聞いてみようと意を決して、春樹は浴室を出た。


