夏のタイムスケジュールからすると、朝食の後は勉強だ。
自室にわざわざ暖房を入れるよりはと、勉強道具をリビングに持ってきた。
まずは苦手な数学からとりかかった。
通信教育で届いた教材はまだ新品で、傷もなければ折り目もない。ページを開くとまず目次になっていて、一項目めは中学までの復習だ。
3年かけて学んだはずの内容はたった4ページにまとめられており、いかに無駄が多かったかを思い知らされた。
XとYを求めて、ノートに計算式を書く。公式を覚えていれば簡単な問題だ。
証明も同じ。きちんと辿ればバラバラだった数字の羅列が一本の線で繋がる。
春樹は数学が苦手だ。出来る出来ないの出来ないということではなく、好き嫌いの嫌い。
なぜなら、答えはいつもひとつだからだ。誰が計算しても同じ答え。
理論と森羅万象の緻密な世界。
決して曲がることのない道って、存外退屈なものだ。春樹にはまだ数の深みは理解できなかった。
復習の4ページ分を一気に終わらせ、別冊の回答集を開いた。
いくつかちょっとした計算ミスはあったが、それでもほぼ正解。
ミスのあった問題の解説を読んで、数学の教材は端に追いやった。
さっきから夏はパタパタと動き回っていた。勉強をする春樹を邪魔しないためなのか、掃除機などでの騒音は立てていない。
ただ、目の前を四つん這いで何往復もされた。
また意外なことに、夏は現代社会における便利な道具を知らないのだろうか。
楽しそうに雑巾がけをする夏を目の端で捕らえるたびに、春樹は笑いを噛み殺した。


