眠りの淵から身を投げたした夏は、闇の中でうずくまった。

ぽつりぽつりと光の粒が周りを漂っている。




無限とも思える闇の空間には風も音もなく、空虚の中のほの暗い光の粒が唯一温度を持っていた。


「またか、なんで俺が掃除屋なんだろう…。」

うずくまった夏がため息を漏らした。

ぽん、と口から光の粒が飛び出た。
慌てて口の中に粒を戻した。
ほろ苦い味。
昼間飲んだ珈琲のような味だ。



口直しとでもいうように、側を漂っていた薄いピンクの光の粒を飲み込んだ。




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涼やかな夜風に揺れる。
命の短い山櫻の花。

月明かりの下、なにかの動物の声がする。

はらり、はらり、と隣り合う花びらたちが舞い散る。

散りゆくときもなお、美しさを絶やさない。


風に煽られて、視界が反転した。

満月だ。

凛とした、銀とも金とも白ともつかない灯。

舞い踊る花びらに遮られ、光と闇とを繰り返すうち、何も見えなくなった。



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儚くてもどかしくて、切なくなる。
月の姿に一瞬で恋をした桜の花びら。

最期の瞬間、美しく舞い踊ることしかできないのに、きっと月からは見えないのに。


思い出の粒を飲み込むたびに夏はうなだれる。


思い出というのはどれも後味が悪い。