がさがさと掛け布団がずれた。明子が寝返りを打ったのだ。


明子は寝相が悪い。そこが唯一と言っていい彼女の弱点だが、夏にとっては可愛いところだった。


布団を直し、そっと首の下に腕を入れた。
頬にかかった髪を払う。




明子が夏のことを心配するのも、ガッカリしているのも分かる。夏には執着心がない。関心がない。



人並みに感情はあるし、愛想も悪くない。だから大人相手の薄っぺらな関係なら上手く成り立つが、深く関わることはしない。

恋人の結婚話を聞いたときも、唖然とし寂しくは思ったが、引き止めたいとまでは思わなかった。
彼女が望むなら仕方がないとすぐ観念した。

そもそも自分が家庭を持つ事を考えたこともない。何度も結婚したいと明子は言っていたが、婚姻届を出すだけで、別に今までの生活が変わるわけではないのにと思っていた。
それに、こんなことを言えば間違いなく彼女は怒るし戸惑うだろうが、夏は子供を作りたくなかった。

「俺みたいになったらどうするんだよ。」

考えていたことが口に出てしまった。彼女が身じろぐ。目覚めていないかそっと確かめて、ため息をついた。

いい大学を卒業し、様々な資格も言われるがまま取得したが、夏にその先はない。興味がない。




上辺だけで関わっていいことじゃないよ、

と彼女の言葉を頭の中で反芻していた夏だが、ゆっくりと眠気が落ちてきてそのまま沈んだ。