7年も付き合った恋人が、別の男と結婚すると言ったのに、夏は一度だって、やめろ、と言わなかった。
心のどこかで期待していた。
俺と結婚しよう、
という言葉を待った。
まだ、夏から引き止める言葉はもらっていない。
どうしようもなく欲求することならば、何か行動をおこすものだ。だから見合いをした。夏の本当の気持ちを知れると思ったから。
怒って怒鳴り散らしてほしかった。
泣いて縋ってほしかった。
三十五歳を超えてみっともない考えなのは重々承知で、もうほかに方法はなかったのだ。
けれど駄目だった。
明子は一人で泣いた。わんわん泣いた。
夏は色々なことを諦めている。
諦めている、そして関心を持たないように心を閉ざしている。
優しくて誠実な人が、自らの意思で。
大丈夫だろうか。
少年の人生を左右してしまうかもしれない夏に、なんと言えばいいか解らなくなってしまっていた。


